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「夜景」という言葉は、特有の響きがあります。それは、夜の景色といった単純なものではありません。光のないはずの夜に光を放つと、照らし出されたものは闇の中に浮かびあがり、背後の闇はその暗さを増します。暗い夜を明るくすること、それは道具を使うことを知った人類の文化のなかで、もっとも基本的なものの一つです。
 
歌舞伎座正面の堂々たる外観は、近代建築の多い銀座の表通りにあって独特の雰囲気を放っています。このような大建築は、夜の闇のなかでライトに照らされると、その威容が際立ちます。その広大な建物を照らすために、合計40個のライトが毎晩活躍しています。
主なものは、正面に向かって左に1基、右に2基の照明塔なのですが、その他に『絵看板の屋根』や、『2、3階の欄干(らんかん)』などの正面からは見えない所にも設置されています。これが上から照らす太陽と決定的な違いを生むところ!昼間は目立たない軒下が光によって突き上げられ、見る者に覆いかぶさるように迫ってきます。
光と闇は相互に補完しあって人間の視覚を支配しています。いわば車の両輪のようなものです。人は光があるから闇を感じ、闇を知るから光を求めるのではないでしょうか?
 
夜でも人通りの多い晴海通りは、閑静な公園や山林の古寺、古城のようなロマンチックな雰囲気は味わえませんが、お帰りの際には、ちょっと後ろを振り返ってみてはいかがでしょうか。
 
 
 

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