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 歌舞伎座の木挽町通り側敷地内に「お稲荷さん」が祀られている場所があるのは、意外に知られていません。歌舞伎俳優や劇場関係者の中には、今でも興行の初日と千穐楽にはお参りしている方がいらっしゃいます。
 もともとこの「お稲荷さん」は、大入りや安全を祈願して祀られたもので、昔は木挽町界隈の商人たちもお参りにきていました。
 さてこの「お稲荷さん」ですが、全国の神社の30%強が稲荷神社の名称を用いているそうです。正式に届け出されていないものを含めると、この数倍の「お稲荷さん」が存在していることになります。ともかく五穀豊穣、家内安全、商売繁盛など、ご利益の面からも「お稲荷さん」は民衆にとって人気抜群だったようです。
 もともと、「稲荷」の語源は「稲成り」あるいは「稲生り」で、肩に背負った稲を穀物の神に捧げたとされる因習から、この名称が定着したようです。
 また「稲荷」は狐の神社としてのイメージが先行しがちです。このことに関しては諸説あるようですが、“狐が大切な稲の天敵である鼠を退治する”ことから、狐を神使とシンボル化されていったようです。(肉食の狐に蛋白質の油揚げを捧げたのはこのためでしょうか?)
 現在も稲荷神社の中には場所によっては、神楽女(かぐらめ)が舞いを捧げる風習があるようですが、歌舞伎の起源も同様に豊穣を感謝するイベントだったとすると、そうした意味においても、歌舞伎座に「お稲荷さん」があるのも正しいことと言えます。そう言えば歌舞伎の演目の中に、神秘化した狐が取り上げられることが多いのは、やはり民衆の遺伝子の中に、狐への古来よりの崇敬の念が存在しているからかもしれませんね。
写真と文章・アジャスト田中伸明
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